ウクライナ戦争シリーズ01:さて、ロシアはウクライナに侵攻するんですかね?

ということで、ロシア軍がウクライナ国境に集結しているらしいのである。ロシア軍の4分の3が集結しているというのは、彼らのやる気を感じさせるに十分であるが、ネットを見る限り、ウクライナ人やロシア人、そして、その地域の専門家の意見も非常にバラバラに分かれているのである。


そんな中、ネットをぶらぶらしていると、元サイバーストライクの偉い方(CTO)がロシア系アメリカ人としての詳細な分析をかなりな量でツイートしていたのである。


面白そうなので訳してみた。それが以下である。


「過去数週間で、私はクレムリンが残念なことに今冬のどこかでウクライナに侵攻することを決めたのだと確信した。プーチンが心変わりする可能性はあるかもしれないが、その可能性は極めて低いと見る。なんでそう考えるのかをちょっと説明させてちょ・・・。」


「私が侵攻はほぼ決まっていると確信せざるをえない数多くのシグナルをロシアは発しており、それを裏付ける数々の理由も存在するのだ。」


「シグナルその1:これが一番モロなシグナルで、ロシア軍はウクライナの北と東の国境、そしてクリミアの南に集結しており、その規模は質量共に過去の規模とは異なっている。」


「ロシア軍の75%の大隊がすでに(ウクライナ国境に)移動済み。砲兵隊、防空隊、戦車隊、装甲兵員輸送車隊、橋をかける部隊、地雷処理隊、重機担当の隊、エンジニア部隊、燃料補給部隊、大量の輸送隊、などなど。詳細は @RALee85のツイートを見てちょ。」


「これはとてつもなく大規模に展開された軍隊で、明らかに本気の侵攻の準備に見える。フカシじゃないだろう。なぜなら、こんな大規模な軍隊や設備や輸送網を永遠にここに置いておくことはできないからね。 @RALee85は引っぱっても来年の夏までには撤退しなくてはならなくなる(訳者注:つまりそれまでにはなんか行動を起こさないとそこにわざわざ部隊を展開した意味がない)と考えているようだ。」


チェーホフの戯曲中の小道具のライフルのように、使わないけど置いとくだけって話しではないからさ・・・。」


「シグナルその2:サイバーアタックの準備が。12月のはじめからウクライナ政府や民間人のネットワークにロシアからのハックがめっちゃ増えている。」


「昨日私が@SangerNYTと@julianbarnesに話したとおり、狙われている機関は、侵攻用の情報収集と戦場での準備として、極めてピンポイントでターゲットにされている。」



「シグナルその3:外交的最後通告。ロシアが先週突きつけた(要求の)リストはアメリカとNATOの同盟関係にとって受け入れられるわけがないレベルのバカバカしいものであった。そもそも交渉をしましょうというような類の本気が感じられるものではなかった。」


「それにそもそも、万が一譲歩の内容として、イスカンダルミサイルをカリーニングラードに配備せず、巡航ミサイルをロシア西部に配備しないというのを、西側が条件として要求してきたとしても、ロシア側は飲む気がないだろうし。」


「シグナルその4:(西側につきつけた)要求を公開したこと、そしてそれにより西側のメンツを失わせないで(彼らを)譲歩させるというのを困難にしたこと。これらは今までになかった外交的手法で、これ以上の交渉をする気がないこと、そして西側からこの要求をを拒絶させることにより侵攻の口実ができることを(ロシア側は)望んでいる。」


「シグナルその5:多国間の交渉を拒否して、USとの1対1の交渉を要求したこと。これは、(1)アメリカに拒否させてさらなる侵攻の口実を作ること、(2)アメリカとその同盟国の間の関係を微妙なものにすることを意図している。どっちにしても、win-winでしかない。」



「シグナルその6:(つきつけた要求に対して)とっとと回答しろと求めていること。本気で交渉するなら数年レベルの長い時間が必要で、すぐに交渉が終わるわけがないことをロシアはわかっている。アメリカにそんなにすぐ回答なんかできないと言わせることは、アメリカが交渉に対して本気で取り組んでないとの言い分になり得るし、これがさらなる侵攻の口実になる。」



「シグナルその7:文学的に表現するなら、ロシアー西側諸国間の緊張は沸点に近づいている。外交的なお行儀のよいやり取りをする段階は終わり、緊張は日に日に高まっている。」



「シグナルその8:情報戦が繰り広げられており、ロシア側は様々なウクライナアメリカ、そして、NATO(もしくはその3つ全て)の軍事行動を挑発行為だとしてメディアで発信している。ロシアはそうすることによって軍事侵攻を正当化したいのだ。」



「さて、ここからはなんで軍事侵攻するのかというところについて語っていこう。プーチン的視点で語ると、理由なんかいっぱいある。」


「理由その1:キエフとドンバス地方独立派の軍事バランスの変化に対する脅威。プーチンは昨年のアゼルバイジャンアルメニア間のナゴルノ・カラバフ紛争をNATOの最新の軍事力(トルコ軍のTB2ドローンとか)、特に領土を奪回するための軍事力、を見定めるのにいい機会だと見ていた。」



プーチンはゼレンスキー大統領がドンバス地方に対する問題を外交的に解決しようとしているとは信じなくなり、ドンバス地方の軍事的な状況が遅かれ早かれ変わっていくことを未然に食い止めようと思っている。」


「ちなみに、サアカシュヴィリ(ジョージア大統領)の再軍備ジョージア分離独立派地域への侵攻、そしてその時の状況への変化を推し進めたことは、2008年の南オセチア紛争のきっかけになった。現在のウクライナ情勢との類似は非常に不気味である。」


「理由その2:NATOの拡大による深刻な脅威。我々はそもそもNATOがロシアにオラついているのかどうかの議論をしてもいいが、クレムリンのエリート連中にとっては、それはオラついている以外の何物でもないということなのだ。」


「過去300年の間に行われたロシアに対する様々な侵略(ナチス、ナポレオン、スウェーデン人、ポーランド人、などなど・・・)は、今のベラルーシウクライナの地域を起点として行われたのだ。」


「だから、この両国の将来的なNATO加入に対する動きは、ロシアのどの指導者、プーチンエリツィンゴルバチョフ、それどころかナワリヌイ(反プーチンのリーダー)のような人にとっても受け入れられるものではない。これは、極めて現実的な、確固たる脅威としてみなされるのである。」


「理由その3:ウクライナの親米新NATO政権、ベラルーシの反ルカシェンコ派、ジョージアのカラー革命、モスクワの体制反対派、これらはみなプーチンにとっては同じかたまりにしか見えないのである。西側のロシアを弱体化させる狙いの隠れ蓑代わりとして、そしてそれらは近隣諸国と互いに連携していずれ反ロシア連合となるのである。」



「理由その4:たとえウクライナNATOに加盟しなかったとしても、間違いなくウクライナはポーズとしてNATOの武器を配備し、NATOの人間もウクライナ国内に置くとプーチンは確信しているのである。」



「彼は「モスクワやクリミアにミサイルが着弾するのに4~5分しかからない」と発言しており、なんだそりゃ?と思わずにはいられないが、現実として現在彼が一番脅威だと思っていることはこの問題なのである。」




「理由その5:プーチンウクライナ侵攻がウクライナジョージアベラルーシ、もしくは、他の中央アジア諸国がロシアに断りもなくNATOに加盟することや、NATOの武器や軍隊を配備することの議論を打ち止めにすることができることを知っているのだ。」


「そしてそれは、即座にロシアの該当地域に対する影響力を回復させることになるのである。(バルト諸国を除く)旧ソビエト国家が偉そうにNATOEUに近づこうとすることなどなくなるだろう。」


「理由その6:タイミングを考えると、これ以上の最高のチャンスはないのである。アメリカは国内政治と中国問題に時間とパワーを費やしている最中なのだ。」


「そしてエネルギー価格はぶち上がっている。ヨーロッパはロシアからのガスにめちゃくちゃ依存しまくっているし、アメリカでさえロシアの原油を輸入している。なので、化石燃料経済制裁の対象となる可能性はほぼありえないのである。」


「理由その7:経済制裁はロシアにとっては抑止力にならないのである。彼らは、彼らがたとえ経済制裁を忌み嫌おうとも、それにどう対応して生きていけばいいのかをすでに学んだのである。過去と比較して、ロシア経済は経済制裁に対して、中国からの援助もあり、堅牢である。それに加えて、制裁の内容がどうであろうと、制裁を予期することを学んだのである。」



「今年発動した制裁は歴史的にアリだとされていたスパイ行為、SolarWinds/HolidayBearのようなサイバーハックに対して発動された。結果として、これによりロシアが何をやろうと制裁が発動される的なノリになってしまい、制裁自体の意味が失われつつある。」



「そして、石油と天然ガスに対する制裁がロシアを経済的に苦しめるとしても、そんなことが今起こるなんてことはありえない。ヨーロッパはクソ寒い冬真っ只中だし、アメリカはアホみたいな鬼インフレが進行中だからである。」



「理由その8:プーチンは軍事力で彼の目的が達成可能だと考えている。ロシア軍は長距離砲で数日で容易にウクライナ軍を制圧し、地上戦で彼らをドニエプル川付近まで押し戻すことが可能である。」


「彼はウクライナ西部に侵略しようとは思っていないが、ドニエプル川に沿ってウクライナを2つに分割し、恒久的な緩衝地帯をヨーロッパとの間に作ることができると考えている。また、クリミアへのルートとしてもこの緩衝地帯を使うことができるのである。」


「理由その9:彼はおそらく軍事コストはそんなに高くないと考えている。侵攻初期のコストも侵攻後の維持コストも。ロシアは何十年にも及ぶ、反乱に対する鎮圧の経験があるのである。チェチェンしかり、シリアしかり、ドンバス地方(ドネツク)しかり、そしてクリミアにおいても。」


ウクライナ西部に関しては、若干今までの話とは別の状況になるはずである。だから、プーチンドニエプル川を越えようとは思っていないのである。ロシアは今までウクライナの反乱に対して非常にうまく戦ってきた歴史がある。1640年代、1700年代、そして、1920年~1950年まで。経験豊富なのである。」


プーチンはそろそろ70歳になる。彼はせいぜい権力を維持できるのが後数十年だということを理解している。彼は彼自身をロシアを経済的にも軍事的にも荒廃し屈辱的だった90年代の状況から復活させた歴史的な指導者としてみているのである。」


「2014年のクリミアの奪回は、比較的小さいコストで達成され、彼を他の長く未解決だった問題、ロシアの近隣諸国に対する影響力を取り戻すこと、などに対して、彼が引退するか死ぬ前に積極的に解決しようと取り組む転機となった。」


「これはとても悲観的、しかし、とても現実的な、なぜロシアの侵略の可能性が極めて高まっているかという状況分析である。そして、西側ができることというのはそんなに見当たらないのである。」


プーチンに残された時間は限られている」という部分は自分には刺さってきた。確かに人生の最後に思うことは「心残りを可能な限りなくしておきたい」ということだろう。そしてプーチン的には何百年後も国民から讃えられる偉大な政治家になって死にたいはずである。ドニエプル川の東側だけを取りつつ、ロシアの影響力を取り戻したいという理由も侵攻の理由としては十分である。さらに、彼は中国のここ最近の急激な隆盛を見て似たような共産国家の指導者として思うところがあったに違いない。以前の強いロシアを取り戻すために、何らかの行動を起こすのであろうか?また、それがツイートの通り今冬なのであろうか?


*ちなみに「全然そんなことねーよー、これプロレスだから笑」みたいな発言をしている方もいっぱいいらっしゃって、何が正解なのか全く見えないところが興味深いところでもあったりする