ポリコレ VS Stallman

なんと、あのエプスタインのインシデントGNUストールマンに飛び火して、ストールマンFSF(Free Software Foundation)の代表を辞任することになった。同時に、長年在籍したMITのCSAIL(コンピューターサイエンス&人工知能研究所)の研究員からも退いている。


彼は同じくMITに在籍していたマーヴィン・ミンスキーを擁護したメールをCSAILのメーリングリストに投稿し、これをMITの卒業生によって公にリークされ、よくいる他の大勢と同様にTwitterを中心とした今どきのメディアによって袋叩きにされている。まさか、ストールマンがこんな目に合うとは。


彼がどれほどコンピューティングの世界で大きな貢献をしてきたかというのは今さら書くまでもないだろう。ストールマンがいなかったらどうなっていたかという仮定の話が成立できないくらい、彼がこの分野に残した業績は大きすぎる。Emacsといった優れたソフトウェアを多数GNUのライセンス下において発表しただけではなく、「Free SoftwareのFreeはタダという意味ではなく自由のことである」といった思想面でも優れた(強烈な)リーダーシップをとり、人々の自由を強欲な大企業から守るための活動を続けてきた。


今回、問題となってしまったメールの一番ボコボコにされてしまった箇所は以下のとおりである。

We can imagine many scenarios, but the most plausible scenario is that
she presented herself to him as entirely willing.

様々なストーリーが想定できるが、最も自然なシナリオは、(私が思うに)女の子は単に性的サービスを自発的にミンスキーに提供したにすぎない、というものだ


この表現が今のアメリカでは問題外レベルでNGだということのようだ。これは、「LGBTには生産性がない」と悪気なく発言して炎上した日本のケースに極めて似ている。


Twitterなどで確認すると、ポリコレ的な思想では「どんな状況下であろうと、成人が未成年の少年少女とセックスするのはレイプ*1でしかない」ということになるらしい。そして、この認識がストールマンにはなかった。もし、「レイプを正当化しようとしたおっさん」というレッテルがストールマンに貼られてしまうと、彼はコンピューターサイエンスの世界どころかアメリカ社会に居場所がなくなってしまう可能性がある。


炎上は鎮火するどころか、彼の過去の様々な問題発言を掘り返して叩くというのを超えて、例えば「彼の研究室には寝るためのマットレスが常備されていてそれがマジキモかった*2」とか何かのトークセッション中に足の皮膚を取って口に入れる動画が拡散されて、発言ばかりか彼の人格や人間性が全否定されている最中である。これもある意味レイプのようにも思えるのだが・・・。


いずれにせよ今の時代、この形でTwitter民やポリコレ棒を構えて相手を探し回っている人たちに一度ロックオンされてしまったら勝ち目なんてない、というのが結論なのだろう。タイトルに「ポリコレ VS Stallman」と書いたが現実はストールマンが一方的に蜂の巣になっただけのことである。ちなみに、その後弁解のメールも投げているが火にガソリンを注ぐ結果にしかなっていない。


筆者は正直ここまで袋叩きにしてストールマン(やミンスキー)の業績に全く敬意が払われないのはどうかと思ったりもするのだが、時代は変わったのだろう。昔は超人的な天才はある程度の社会性が欠落していても大目に見てもらえる寛容さが社会にあった。その代わり世の中にもたらす成果がとてつもなく大きかったからだ。しかし、今回の件でも明らかなように今はあらゆる発言/行動が致命的なミステイクに成り得り、先鋭的なポリコレ棒を持った人たちとそれにのっかることがクールだと思っている人たちによって監視/制限される社会がいつの間にか出来上がってしまった。この現象の行き着く先として、今後人間が生み出す成果物は極めて無機質で無味無臭な物になっていかざるを得ないと思うのだが*3、それで全然OKという人たちが現在のマジョリティーということになるのだろうか。

*1:日本ではこれを暴行と訳している場合が多いが、これは誤訳といってもいいと思う、正しくは強姦である

*2:昔のハッカーってそういう感じでしたよね・・・

*3:現時点で、タブーに切り込もうとするアクションにもすでに制限がかかっているように見受けられる