札幌ドーム小景

先日、札幌ドームに野球の試合を観に行ってきた。ほぼ5年ぶりの観戦だった。


札幌ドームで野球観戦をするということは、ある意味作られたというか変に人工的な独特の雰囲気の中に身を投じ、避けられないその居心地の悪さの中でゲームを見るという体験になる。ただ普通に野球を見て、純粋にひたすらに野球に打ち込む選手を応援して勝ち負けに関係なくさわやかな気分で帰路に着く、ということにはまずならないことが多い。そういう気分になることを阻害するストレスがここぞとばかりに点在しているのだ。上から与えられたものに純朴に従う道民気質もあり、札幌ドームおよび日本ハムファイターズのネガティブな部分は語られることがほとんどない。本稿ではその点について触れてみたいと思う。また、現代日本における地方都市のディストピア感も伝われば書いた甲斐があるというものだ。


まず有名な話だが、相変わらず駐車場のチケットは1台2,500円を、しかも前売りで購入しておく必要がある。外野のチケットは1,500円ほどなので、駐車場の料金の方が高かったりする。また、前売り制なので3回途中くらいの状況をテレビで見て、「よし、今から応援しに行こう!」と車で馳せ参じるということは基本できない。これが札幌ドームの野球観戦における一番のクソなポイントだ。なので、観戦に行く場合は(1)地下鉄か(2)球場周辺の野良駐車場を利用することになる。


地下鉄は当たり前の様にドームまで伸びていない。最寄り駅は東豊線の福住という駅で、そこから大体15分くらい徒歩で外を歩かなければならない。もちろん雨の日も(ちなみに雪の日も)だ。ドームの真下まで路線を伸ばすというのは何度も検討されたらしいが、実現する前に球団に逃げられてしまった*1


野良駐車場の方は、球場に近い所は大体1,000円が相場だ。だが、人気のあるカードの場合は便利な所は早々に埋まってしまうので*2、遠くの駐車場を利用することになる。自分の場合は大体25分くらい歩く所を利用している。


これらの不便さはスーパー車社会の北海道でどのくらい致命的なのか都会の方にはなかなか伝わらないかもしれない。北海道で一番大きい都市の札幌でも近所のコンビニどころかゴミを集積所まで出しに行くのにも車を使う人(というか徒歩で済ますという発想がそもそも存在しない人)が大勢いる。だから、札幌ドームまで車で数十分の距離のところを1時間以上かけて公共交通機関を駆使して*3、さらに地下鉄の駅から15分歩いてわざわざ観戦に行く人は(1)超コアな大ファン(盲目的な信者)(2)車を持っていない若い人(主にアイドル選手のファン)(3)そこまでして行くほど暇を持て余している老人、に限られてくる。この駐車事情によって作られた客層が札幌ドームにおける野球観戦の独特な雰囲気を作り出している。


さて、そんなストレスを試合前にくらったところで、ドーム内に入場してもさらに数々のストレスが待っている。まずは日ハムが出ていく原因の一つとして報道された、ドーム内の売店についてである。これはいわゆる閉鎖された空間での独占販売という何の努力もいらない環境に基づいて考えられているので、(1)高い(2)選択肢の幅が異様に狭い(3)意味なく死ぬほど並ばせられる、の三重苦を強いられる。コアなファンであればあるほど(駐車場で2,500円払わされた後にさらに)クソ高いビールや割高のファーストフードを買わされるシステムになっているのだ。遠方から遠征して見に来てくれる方々も大勢いるはずだが、そういう方たちに対する思いやりの気持ちは余裕で皆無で、申し訳程度のご当地メニューは存在するが、新鮮な海の幸やジンギスカンなどを食べることができるわけではない*4。また、理由は不明だが少ない台数のレジで精算させることに固執しているので、何を買うにしてもとてつもない行列に並ぶことになる。経営母体の札幌市は頭が悪いことで有名で、電子決済用のスタッフをレジ付近に配置させて並んでいる人を少しでも早くさばいていくという知恵(に加えてサービス精神や人としての思いやり)は存在しない。毎試合毎試合、1つのたこ焼きを買うのに10分から20分並ぶのが常である。なので、その後別の店でハンバーガーを買う場合はさらに10分から20分並ぶ必要がある。つまり、たこ焼き1つとハンバーガー1コを買うのに40分かかることもこの球場ではごく普通のことなのだ。


また、売店の上がりは球団に1円も入らないことが日ハムの大きな不満だったことは何度も報道されてきた。「自分たちで企画/管理できればもっといいものにできるはずなのに」という悔しい思いを彼らはずっと我慢してきたのだろう。そもそも、テレビで見ることができる試合をなぜわざわざ球場まで見に行くのかという理由は、ビールを飲み、美味しいものを食べながら球場の臨場感を肌で感じるという体験にテレビ観戦とは一味違う快感があるからという理由が大きいからだと思う。札幌ドームの飲食のレベルはその体験をよりスペシャルで忘れがたい体験にして一見さんをリピーターにする*5ツールにしたいという観点から見ると、あまりにも貧弱で思慮が浅い。


ここまでは札幌市の無能さ&無策さによる残念であるからして、そんなものに慣れきってしまった札幌っ子にとっては、まあこれに限ったことではないかとあきらめることもできるのだが*6、これに加えて球団にも多々お客さんにストレスを強いる問題があるのである。


まずは、大リーグを真似たらしいのだが、未だに意地をはって内野席にファールボール対策のネットを張っていない。過去にはお客さんが失明した事故が起こっているにも関わらずだ。正直そこまでこだわる必要があるとは全く思えず、日本の技術なら透明なネットを張る等、様々な工夫を行えるはずだ。少なくとも、試行してダメならやめればよい。現に自分が観戦した試合では、自分の席のすぐ近くでファールボールがおばあちゃんの鼻に直撃しあたりが血まみれになっていた。ぶっちゃけ、暇と金を持て余した老人達は暇つぶしに球場に来ているだけなので試合などロクに見ていない*7。そんな方たちを太客として利用しているのなら、もっと彼らの安全を考えてもいいのではないだろうか。ちなみに、レッドソックスは今シーズンから内野席にネットを張ることにしたらしい。老人だけではなく子供だって大勢見に来ているのだから当然のことだ。流血したおばあちゃんはどこかに運ばれていき、残された座席の周りの血はスタッフが手慣れた感じでささっときれいにしていた。


そんな大リーグのモノマネも中途半端で、NPBのガンと思われる鳴り物の応援&応援歌は推奨どころか球団ぐるみで試合の最初から最後まで鳴り止まない。特にチャンスになるとジンギスカンの歌が頭おかしいんじゃないかというくらい繰り返し演奏される。NHKでの大リーグ中継によって大リーグの観戦スタイルを多くの人が知ることとなった昨今、観戦の仕方にも多様性があってもいいはずなのに、バカみたいな応援歌や応援曲を未だに強制的に大音量で聴かされるのは苦痛でしかない。ファールボール避けのネットを張らないのであれば、打球音が響き、一球一球に集中できるように鳴り物の応援は止めるべきだ。


さらに、この球団の一番の欠点はやっている野球の内容がエンターテイメント性に乏しくとてもつまらないというところにある。看板選手の某4番は基本2割5分程度しか打てない。長打力も低く通算OPSも.762くらいしかない(鈴木誠也は.958)*8。4番がそんな感じなので、フライボール革命が流行っている昨今、ちまちましたセコい野球でセコい勝ち方をするのがこの球団の方針である。よほどのファンでないと見ていてどこが面白いのか、そもそも球場に見に行く価値がある野球なのか、自分には全くわからない。


それでも今までこの球団が存在できた理由はこんな退屈な野球を補完してくれるような、異様なクジ運のよさ*9があったからだ。ここ最近の超ウルトラスーパースター選手はほぼ全て日ハムがクジを当てている。だから吉田輝星も前から決まっていたかの様に(笑)日ハムに入団した。彼らがいなかったら北海道がフランチャイズという特色以外に何の売りがあるのだろうかといつも思う。


そんな感じでとてつもなくつまらない野球をどうでもいい大音量の応援歌を浴びながら見る、というのが札幌ドームの野球観戦である。そして見終わったあとは、また25分かけて駐車場まで歩くことになる*10


北海道在住ではない方はほとんどご存知ないだろうが、日ハムという球団の人気は現在は北海道に完全に根付いて札幌だけではなく北海道の隅々に熱狂的なファンを持つまでになっている。純朴な道民気質をうまく利用したと言ってしまえば味気ないが、彼らのピュアな球団に対する思いがここまでの隆盛をもたらしたのは間違いない。特にここまで来たのには初期のあのスター選手の貢献度が計り知れないくらい大きかった*11


ただ自分が日常悲しく思うのは、球場に行く度に実感するのだが、それがいわゆる野球文化に根ざしている人気ではなく、限りなく金と暇が余っている老人や娯楽のない北海道で何かに関わっていた人たちから集金するシステムをうまく利用しているだけじゃないかと感じる点にある。それがいわゆるWIN-WINの関係であればいいのだが、例えば老人から巻き上げる構造について考えてみれば、近年社会問題化しているオレオレなんとかと何の違いがあるのだろうか、と思わざるを得ないからだ。実際、筆者が観戦した試合では前述したようにシーズンチケット保持者のおばあちゃんにファールボールがぶち当たり、おばあちゃんは大流血していた。そんな目にあってまでせっせと金を貢いでくれる状況はプロ野球球団とファンという関係から大きくかけ離れてしまっているように感じてしまう。さらにもっと言えば、10勝しなくても年俸が1億円に達してしまうようなNPBの昨今の事情と、道民の経済事情を考えてみてほしい。年俸を打者の打席数で割ると、投手の球数で割ると、どうなるか。その金額が泣けなしの給料や年金で観戦に来ているお客さんの月給や年収と比べてどうなのか。そんなことも気にならずに盲目的に応援するとしたら、これは宗教や信仰みたいなものだが*12、果たしてそこにお金や時間を使うほどの見返りをファンの方たちは得ているのか。そんなことを考えてはじめてしまうと、この球場で純粋に野球を楽しむことは難しく、よくある地方都市のディストピア感を無理矢理味あわされて暗い気持ちにさせられるのだ。


別にただ文句を言いたくて本稿を記した訳ではない。単純にメジャーリーグの様に球場の周りが全部駐車場で気が向いた時に気軽に立ち寄ることができ、球場内で人気ラーメン店の出店で買ったラーメンを食べながら野球を見て、クリーンナップに3人並んだ外国人選手の豪快なホームランの共演を見ることができたら*13、どんなに楽しいか、そしてこんな簡単な事がなんでできないかと疑問に思うからその事を書き記したというだけである。そして、それが我らが北海道のチームで実現できたらどんなにファンが今より喜んで幸せになってくれるかと考えると現状が惜しくてしょうがないのである。そんなことを、毎回のことではあるが、今回も札幌ドームに観戦に行って思ったのだった。

*1:2023年に北広島市に移転が決定している

*2:さらに巨人戦などの超人気カードは野良駐車場も料金が倍以上になる

*3:札幌で交通機関を使って札幌ドームまでたどり着く場合は、どこに住んでいようと市の中心分を経由する必要があるので、例えば車で20分の距離だとしても、バス地下鉄を使えば1時間は余裕でかかってしまう

*4:ジンギスカンっぽいメニューはあるにはあるが普通のジンギスカンをその場で焼いて提供するような屋台がそこらじゅうにあってもいいはずである

*5:商売の基本ですよね・・・

*6:基本、札幌市のやることなすことはほとんど全ての場合で最悪の選択であることが多い

*7:さらに言うと別に野球が好きなわけでもないでしょう

*8:批判しているのではなく事実を書いているだけなのでなにとぞ誤解の無いよう・・・

*9:まあ純朴な道民は疑問を抱かないよね・・・

*10:そして帰りに腹が減っているので何か食って帰ることになる(ドーム内ではとても何か買って食べる気にならないので)

*11:でもガングロで歯真っ白でろれつ回ってなかったりで、あっ・・・

*12:まあ実際宗教化してますよね・・・

*13:外国人枠はそろそろ増やした方がいいと思うんだけど・・・